流れゆくあの日常
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わたぬけ

Author:わたぬけ
京都の某大学に通うしがない学生。
趣味は読書と音楽と小説を書くこと。
ちょっとピアノも弾けたりする。
でも何もかもが中途半端さ^^



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お蔵入り大放出その2\(^o^)/「僕の竜」
 ネタがないときは、お蔵入り放出に限りますよっと。

 さて、今回で二度目となるお蔵入り作品の大放出。
 とあるサイトの短編コンテストに投稿した作品であります。
 まあ、評価はそこそこ高かったんですけど、なぜお蔵入りにしたかはお察しください。
 ちなみに今回も前回と同様、無修正での掲載です。


「僕の竜」


 ゆっくりとなかなか力の入らない瞼を開くと、視界の端から端までトロンと湿っぽい曇り空が広がっていた。両手足の感覚が戻ってくる。なにかざらざらと細かい粒状の物に触れているような感触があった。少年はゆっくりと体を起こす。
 半身を起こすと最初にその目に映ったのは星の果てまで続いているのではと言わんばかりの、真横に美しいまでの直線を描いている水平線だった。彼、時河 竜樹が横たわっていたのは砂浜で彼のいる場所から一,二メートルも下ればそこでは波が寄せては引くという単調な動作を繰り返していた。
 竜樹はその光景を前にして、驚くよりもまず変な夢を見ているという思考に至った。
 とにかくここから離れようと立ち上がりかけたときだった。ただでさえ曇り空で少しばかり薄暗いというのに、彼の周辺に突如スッと大きな影が伸びた。そして彼が何だろうかと振り向いたとき、そこにはこの世に存在するはずのない生き物の姿があった。まず目に入るのは山を思わせるような巨大な体躯。そして竜樹のどうの太さよりも超えるほどの周りを持つ四本の脚。それぞれの足には鋭くとがった爪が覗いている。最も大きな特徴は背より生えているコウモリのような巨大な翼。間違いなくそれは本や伝説やゲームなどでしかお目にかかることのできない生物、竜であった。全身を赤茶けたような色をした鱗に覆われ、二つの目はじっと竜樹を見つめていた。
 竜樹は思わず叫び声をあげそうになったが、腰を抜かして倒れ込んで、その場で口を数回パクパクとさせただけであった。
 竜樹の頭には様々な考えが浮かんでは消えた。食べられてしまう、逃げないと、いやこれは夢に違いない、なんで竜が? ……
 しかししばらくたっても竜はほとんど体を動かさず、ただじっと竜樹を見据えているだけだった。時間が経つに連れて、竜樹の竜を恐れる感情も少しずつなくなっていくのが分かった。
「これって……やっぱり夢かな?」
 苦笑いを交えたような声で言った後、竜樹は夢を確かめる際のおきまりのパターンであるように頬をつねってみた。しかしやはりただ痛みを感じるだけで目の前の景色が変わったりもしない。これは現実なのだろうか、あまりの非現実的な光景に彼は気が遠くなっていく。
 夢を見た。女の人が叫んでいる夢であった。誰か男性と話しているようだ。女性はヒステリックな調子なのに対して、男性の方は落ち着いている。しかしいったい何の会話をしているのか、彼には分からなかった。
 そして再び目を開けたとき、やはり彼は同じように、白い砂浜で横たわっていた。ただ、先ほどと違っていたのはいつの間にか空が晴れ渡っており、西の方向に間もなく沈もうとしている太陽の姿があるということと、それによってあたりが薄暗くなっていることだった。
 竜は夢だったのだろうか。そう思って立ち上がろうとしたときに低く曇ったような声がする。
「目を覚ましたか」
 竜樹は体が思わず釘で打ち付けられたようにガチガチに固まる。そしておそるおそる後ろを振り向いていくと、やはりあの竜がいた。
 そして何か言おうと口を開きかけたとき、また先ほどの声がした。
「心配いらない。取って食おうとか思ってはいないよ」
 間違いなく声は竜の口より発せられたものだった。その言葉を聞いて竜樹はようやく落ち着きを取り戻した。よく考えればそうだ。自分を食べる気ならとっくにあの世逝きとなっているはず。しかしそうでないということは、少なくともこの竜は自分に危害を加えようとは思っていないという思考に行き着いた。
 そうと分かって安心した竜樹は、竜に色々きいてみたくなるが、まず何から聞こうか迷った。そもそも頭の中がまだ混乱していたのである。
 ここはどこで、自分はどうしてこんな場所にいるのか。そもそもなぜ竜がいるのか。竜は伝説上の生き物のはずではないのか。
 そして色々悩んだ末に行き着いた問いをまず口に出す。
「ここは、どこ?」
 竜は猫が座るように、四本の足を丸めて座り込む。
「ここは、そうだね。少なくとも……この島に君以外の人間はいない」
 その言葉を聞いた竜樹は、事の重大さに気づくのに数秒掛かった。今竜はこの場所のことを確かに「島」と言った。そしてこの島には竜樹以外の人間はいない。要するに無人島なのだ。しかし不思議と竜樹には事の重大さは理解しても、狼狽えたり、それを嘆いたりするような感情は芽生えなかった。しかしなんとかこの島からもともといた街に帰らなければならないと言う思いだけ抱いている。
「このような場所には時々君みたいな人間が迷い込んでくる」
「その人たちは、どうなったの?」
「いつの間にかいなくなったり、あるいはこの場所で生を全うしたり」
 どちらにしても帰ることについてほとんど参考にならない。竜樹はため息をつく。
「言っておくが、私の背にのって島を脱出しようと考えているならそれは無理だ。ここは君のいた世界とは似ているようで違う」
「なにそれ、それって異世界ってこと? 意味分からないよ」
 そのとき腹の奥で虫の鳴き声がした。今日は何かを食べた覚えがない。そんな竜樹の様子を察したのか、また竜が話しかける。
「とにかく何か口に入れておくがいい。寝る場所なら林を少し奥に入った場所に洞穴があるからそこを使え」
 そういうと、竜はコウモリのような翼をいっぱいに広げ、砂埃を散らしながら飛び立った。
「ちょっと、まだ聞きたいことが……」
 竜樹の声は竜の耳には届かなかったようだ。竜は彼の声を無視して島の中央にあると思われる山の方へと飛んでいった。
 竜樹は考えを巡らせて自分が現在置かれている状況を整理した。まず自分は理由は不明だが、現実とは別の世界にあるこの無人島に飛ばされた。この島には竜が住んでいるが、人に危害を加えるような存在ではない。無人島というからには食べ物などは自分で何とかしなければならない。そして今のところは帰る方法は全く分からない。
 竜樹は昨日の間に自分の身に何が起きたのかを思い出そうとした。しかしどういうわけかいくら脳みそをの中の棚をひっくり返しても昨日のことが思いだせない。そのとき、一つのことだけが思い浮かんだ。
 自分はどこかへ行こうとしていたこと。これだけははっきり思い出せた。しかしどこへ行こうとしていたのか、どうしてそこへ行こうとしたのか場所も理由も全く思い出せない。
 体に疲労を感じる。とにかく竜が教えてくれたその洞穴へ行こうと竜樹は砂浜の終わるところから始まっている林へと目指した。
 例の洞穴らしきものはすぐに見つかった。林に入って少し歩くと、断崖になっている場所があり、そこにぽっかりと洞穴が口を開けていたのだ。中は湿っぽくて少々カビくさかったが外で雨風にさらされるよりはましであろう。
 ところで竜樹はあの竜を以前どこかで見たような気がしてならなかった。しかしその疑問は『きっといつか読んだりやったりした本やゲームなんかで似たような竜を見ただけだろう』という適当な結論によってすぐに消え去った。そして竜樹は倒れ込むように横になる。特に何もやっていないのだが、ひどく疲れていた。そしてそのまま眠りに落ちたのだ。
 また夢を見た。やはり女の人の声が聞こえる。さきほどは叫んでいたが、今度は泣いているようだった。どうしてあの女性はあんなに悲しそうにしているのだろう。
 翌日、目を覚ましたらやはり洞穴で横になっていた。元通りの日常に戻っていると言うことはなかった。竜樹はやはり一連の出来事は夢や幻なんかではないとため息をつく。たとえ竜のいるような異世界へ迷い込んだとしてもこれは現実なのだ。
 林へ出ると、やはり竜がいた。まるで竜樹が起きだすのを待っていたかのように。
「眠れたか?」
「うん、一応ね」
「なら良かった」
 竜の話し方は実に事務的で淡々としていた。
 竜は再び帰ろうとしたのか、翼を広げ始めた。そのとき、竜樹がそれを止める。
「ねえ、君名前なんていうのさ?」
「なんでそんなことをきく?」
「いや、だって名前を知っていた方が呼びやすいじゃないか」
 竜はしばらく考えるように竜樹から目をそらす。そして承諾するように竜樹に一歩踏み寄る。一歩といえどもこの巨大な竜の一歩なので、一気に二メートルほど距離が近づいた。
「私の名前はラウル」
「じゃあ、僕は竜樹」
 それから何日もの間、竜樹は島の竜ラウルとともにサバイバル生活を営むこととなった。火はラウルが熾してくれる。林には実のなる木が多い。ラウルは毎日竜樹のもと訪れ、食料を手にするために様々な助言をしてくれるが、いつも日没になると山へと帰ってしまう。
 そしてやはり毎晩あの夢を見るのだった。女の人が出てくる夢。泣いたり叫んだりすることはなくなった。しかし今度は竜樹を無言のまま見下ろすようになった。何も言わず、ただじっとひたすらに。
「ねえラウル」
「なんだ?」
 この島に来ることになって六日目のことだった。島の西の方にある岩場で魚を釣っていた。この島の魚は不思議とよく釣れる。
「この世界って結局なんなのさ。何もかも都合良く行き過ぎてる気がするんだ」
「例えば?」
「この魚たちだってすぐ釣れるし、林には実のなる木ばかりだし、島には今のところ危険な猛獣も見あたらない、それに洞穴の奥ではわき水が湧いて真水が手にはいるなんて」
「そうか……」
 ラウルはやはり事務的に返事をするだけで、それ以外の説明をしようとする気配がなかった。
 太陽が次第に西へと下っていく。日没の時刻が近づいている。空も赤く染まっていく。一日の終わりを告げているように。
 そして竜樹がそろそろ引き上げようと立ち上がりかけたとき、ラウルが言った。
「この島自体が眠りのようなものだからね」
 竜樹は思わずラウルの方を見た。しかしラウルはそれを合図にするかのように、飛び立ち再び山の頂上あたりを目指して飛んでいってしまった。
 この島自体が眠りのようなもの、それが何を意味しているのか竜樹には分かりかねたが、やはりこの島は、いやこの世界がただの世界ではないことは確かであった。
 そしてこの日もまたあの夢を見たのだ。女の人が竜樹を見下ろしている。しかし今回の夢はいつも見る夢よりももっとはっきりしたものだった。女の人が何か小声で呟いている。いつもは泣いたり叫んだりしている声もはっきりとせず、何を言っているのか分からなかったというのに、この日の夢は小さく呟いているにもかかわらず、まるで耳元でささやかれているかのようにはっきりと竜樹の耳に届いたのだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
 彼女は謝っていた。竜樹に向かってただひたすらに「ごめんなさい」という言葉を繰り返していた。その声を聞いて竜樹は確信した。これは自分の母の声だ。しかしどうして謝っているのか竜樹には理解が出来ない。この女性が自分に何か悪いことをしたのだろうか、こんなに真剣にそして必死に謝るようになるほどに。
 そのとき夢の中にまた別の人物が割り込んできた。今度は男性。背が高く、ほっそりとしている。
「あなた。竜樹が目を覚ましてくれないの。もう傷はすっかり治っているのに……どこにも悪いところはないのに……」
 男性の方は竜樹の父親。彼はそう確信した。二人とも顔が見えないが、声や様子からして竜樹の両親であることは明らかであった。
 そして竜樹の母親が放った次の言葉で、自分の身に降りかかった謎。この島、この世界、そして竜の存在の全てが一つの仮説に行き着くに至ることとなる。
「これはきっと罰なのね。私たちがもっとしっかりしていたら……あの飛行機に乗ることもなかったのに……」
 その瞬間竜樹の頭のなかにずっと立ちこめていた霧に、一陣の強いそして乾いた風が吹き込み、それらを全て取り払ってくれるように晴れ渡った。
 目を覚ます。そこはやはりあの洞穴の中。竜樹は全てを思い出した。
 そもそもの事の起こりはこの島に来る一ヶ月前のこと。そう、一日分の記憶がなくなっていたと思いこんでいた竜樹だが、実際にはもう一ヶ月分の記憶が消し飛んでいたのだ。
 竜樹は東京で育って、東京の学校に通っている。そして彼は学校では物静かなタイプであった。積極的に他人と関わろうとせず、いつも一人で黙々と本を読んだり勉強したりしていた。誰かが竜樹に関わろうとすれば、竜樹自身がそれを拒んだりもした。そして成績はかなり良い方で、いつも学年のトップへ位置していた。そんな竜樹がイジメの対象となるには十分な条件が既にそろっていたのだ。
 あからさまな暴力はないものの、机の上やロッカーに消しゴムかすや購買部のパンの空袋を入れられていたこともあれば、黒板に竜樹に関する落書きが施されていたこともあった。しかし竜樹はそのことを誰にもうち明けず、親にすら秘密にしていた。次第に追いつめられていく竜樹。そんな彼をさらに追い込んだのが学校の成績であった。イジメの影響もあって勉強に集中することができなくなり、あるときのテストでは順位を一気に百番近く落としたこともあった。そして成績の不振を咎める教師や両親。そんな彼が助けを求めようと鳥取にいる祖父母のもとへ行きたいという願望を持つのは必然であった。
 あるとき、とうとう成績のことで両親と喧嘩になった。その喧嘩においてすら、竜樹は学校でのイジメのことを明かすことはなかった。イジメは次第にエスカレートしていく。机の中に赤いマジックで大きく「死ね」と書かれた紙を入れられた日さえもあった。
 そしてついに竜樹はある日、親のお金を十万ほど盗んで鳥取行きの飛行機へと乗ったのだ。しかしその飛行機が途中、エンジントラブルを起こして大阪にある空港へと緊急着陸することとなったのだ。さらに車輪や他の部分にも次々とトラブルが生じ、胴体着陸をせざるを得ないこととなった。そして胴体着陸をする瞬間の部分で竜樹の記憶は本当に途切れている。
 いつの間にかラウルが洞穴の出口で彼を待っていた。
「やっと気づいたんだね」
 竜樹はその声にすぐには答えなかった。しばらく両者の間に沈黙が流れる。洞穴の外では島に住む鳥たちが朝が来たことを告げるように鳴き始める。
「ラウル……僕は死んだの?」
 竜樹の声は震えていた。ラウルはすぐには答えない。そしてゆっくりと竜樹がラウルの方へと顔を向ける。その両目からは大粒の涙が次から次へと止めどなく流れていた。
「死んだんだね。憶えてるよ。飛行機にトラブルが起きて、胴体着陸しようとしたんだけど失敗したんだ。だとすると、ここってあの世って奴? それとも黄泉への入り口、じゃなかったら来世とか?」
「違う」
「違うだって? よしてくれよそんな気休めは。だったらなんで僕はいつまでもこの世界に閉じこめられたままなんだ?」
「最後まで聞くんだ!」
 ラウルはいつもにもまして、低く芯の通ったはっきりとした強い調子の声でそう返した。気圧されて思わず竜樹は黙り込む。
「君が気づいたから私も本当のことが言えるようになった。昨日言ったね。『この島自体が眠りのようなもの』だと」
「じゃあ、これは夢?」
「いや、これは一つの現実。言うなれば君が望んだ現実の姿」
「僕が望んだ?」
「そう、君が周囲からの目から逃れたいがために望んだ姿。人との関わりに嫌気を覚え、求めようとした世界そのもの。だから君が昨日言っていたとおり何もかもが都合良くいく。そうやって描いた夢はあるきっかけで現実と逆転することがある。君も以前現実だった世界で聞いたことがあるだろう。身体にどこにも異常がないのに眠り続けている人。いわば植物状態となっている人間」
「じゃあ僕は今、植物状態になっているってわけ?」
 ラウルは無言で頷く。
「そして君は気づいたから、いつでももとの世界へ帰ることが出来る。でもその代わり、もう二度とここへ戻ってくることは出来ない。人が望むものはそのときどきで変わってしまうからね」
 竜樹は歯を食いしばり、目から流れる涙を拭いた。
「ラウル。お願いがあるんだ」
「なんだい?」
「一度、竜の背に乗って飛んでみたかったんだ」
 ラウルは心なしか、にこりと笑っうような表情を見せた。

 風が駆け抜ける。最初は飛行機事故のこともあり少し恐怖感を抱いたが、次第にそれも消えていく。そして竜樹はラウルの上からこの島の全貌を目にした。ちょうど円を描いたように丸い島で中央に大きな赤茶けた土が覗く山が腰を据えており、北の方へいけば大きな滝がある。そして何よりも、ラウルの背は不思議な暖かさがあった。
 こんなことならもっとこの島での生活を堪能すれば良かった。苦笑いを浮かべながら、彼は最後にあることを思い出した。幼稚園のころの工作の時間で「じぶんのせかい」というテーマで描いた絵。その絵に描かれる大きな竜とその背中に乗っている自分。
「ありがとう……ラウル」
 最後にその言葉を口にして、竜樹は深い眠りの中へと吸い込まれていった。次に彼が目を開けるとき、そこに何が待っているのだろう。

―了―






いろいろと残念な作品でしたよっと('・ω・`)

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学


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